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広島高等裁判所 昭和38年(ラ)53号 決定 1964年1月10日

抗告人 田上ヨシ

相手方 高崎金造 外二名

主文

原決定を取り消す。

本件につき原審が昭和三八年八月三〇日なした強制競売停止決定を取り消す。

申立費用は、第一、二審とも相手方らの負担とする。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

よつて審究するに、民訴五五〇条四号にいう執行すべき判決(債務名義)の後に債権者が弁済を受けたる旨を記載したる証書は公正証書たると債権者の作成した私文書たるとを問わないが、債権者が弁済を受領した旨の証書その他債権者の免除、相殺の意思表示を記載した書面の如く、債権者の意思が判然と表現されたものであることを要するのであつて、これらの証書の提出があるときは、すでになした執行処分はこれを保持するも、一応手続の進行を停止することとして債務者の保護をはかつたのである。しかして、右停止後債権者が自ら強制執行の委任又は申請を取り下げることにより、すでになされた執行処分も取り消され、強制執行手続はここに終了するにいたるのである。民訴五五〇条四号に基く停止の趣旨とするところが右のようなものであつてみれば、前記債権者が弁済を受けたる旨を記載した証書というのも、その記載自体から当該弁済に関して債権者、債務者間に争の存することが窺われるようなものでは不充分であることが明かである。もし証書自体でかかる争の存する事実が認められるような場合には債務者は民訴五五〇条四号による強制執行の停止を求めることができず、はじめから請求に関する異議の訴を提起しこれに伴い仮の処分として強制執行の停止を受け得ることがあるにとどまるのである。

これを本件についてみるに、原審は、昭和三八年八月三〇日附相手方高崎金造の四二万七、一八五円の供託書が民訴五五〇条四号所定の証書に該当するとして本件不動産強制競売手続を停止したことが記録上明白であるが、記録編綴の右供託書(写)によると供託原因として、相手方高崎金造は昭和三八年八月三〇日四二万七、一八五円を抗告人方において抗告人に支払のため提供したがその受領を拒絶されたため供託する旨の記載があり、抗告人は右金員を現実に受領していないことはもちろん、相手方金造において弁済供託をなした場合にもその効力を争う意図であることは歴然としているといわなければならない。してみると、前述したところにより右供託書は民訴五五〇条四号所定の証書にあたらないから、右供託書の提出があつても本件強制競売手続はこれを停止すべきでない。

よつて、右と異なる原決定を取り消し、原審が昭和三八年八月三〇日なした停止決定を取り消すべきものとし、民訴四一四条、三八六条、九六条、八九条、九三条により主文のとおり決定する。

(裁判官 三宅芳郎 西俣信比古 宮本聖司)

別紙

抗告の趣旨

原決定はこれを取消す

本件につき原審が昭和三十八年八月三十日なした強制競売停止決定はこれを取消す

予備的申立

被抗告申立人等は申立人に対して本決定送達の日より十四日内に本件競売の排除を求める裁判上の手続をせよ 若これを怠るときは本件強制競売停止決定はこれを取消す

との御決定を求めます。

抗告の理由

第一点不動産の競売につき競落許可決定のあつた後債務者が弁済により競売手続の取消を求めるための弁済時期については判例上区々であつたが最近においては競落人が代金の支払いを終了する時迄とされておる。本件につき競売申立人である抗告申立人は昭和三十八年七月二十九日代金九六七、九五〇円で競落し競落許可決定確定後同月三十日配当期日と指定せられたので同月二十九日代金を納付した。尤も本件については多数の配当要求債権者がないので抗告申立人が受取るべき債権額と代金の差額を納付したのであるが、それは経済上の利益と事務簡捷上執行裁判所の慣例として認められているところであつて代金完納と同一視されるべきものである。然るに債務者は翌日の配当期日になつて債務額を弁済供託したのであるから執行裁判所である原審はこれを不問に付し競売代金の配当を実施すべきであるのに競売手続の停止決定をなされた措置は不当である。

第二点本件停止決定は民訴第五五〇条一項四号に基きなされたもので仮りに斯る措置が正当であるとしてもその決定には一定の期間を定めて競売を許すべからざるものとする裁判手続をなすべく若これを徒過するときはこの決定はこれを取消すとの宣言をなすべく若これを欠いだ場合は申立又は職権により改めて命令すべきである。原決定は斯る決定命令をなすべき法律の規定を欠いでいるとの理由で抗告申立人の申立を排斥せられた。然し乍ら規定がないからと言つて放任するときは債務者において裁判上の手続をしない限り極言すれば執行手続は永遠に未解決のまゝとなり当事者の蒙る不利益は勿論執行裁判所の事件処理上にも多大の支障があるので裁判事件の早期解決の要望に応える見地からしてもその解決策を講究すべきものと思料する。而して執行裁判所は執行事件につき凡ゆる権能を有するにつきこの原則に基き事件処理につき必要とする決定、命令をなし得るし又民訴法第七四六条を類推解釈して法の盲点を是正すべきであるのにこれを排斥せられた原決定は不当である。

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